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    根付は紐で提げた印籠を帯に挟む際、落ちないようするための道具です。 どのような根付を取り合わせるかで、印籠の価値は上がりもしますし、下がりもします。 語呂合わせのように、図柄を関連させたりすることもおもしろいでしょう。 前平戸藩主の松浦静山は、そうした取り合わせを楽しみました。 例を挙げれば、
    ・「白魚の印籠」 印籠:潤塗りに厚貝で白魚 緒締:黒檀蜆 根付:黒塗蒔絵の吸物椀
    ・「千羽鶴の印籠」 印籠:千羽鶴 緒締:牙彫り昇り亀 根付:象牙二匹亀
    ・「松竹梅の附合」 印籠:焼き杉に松茸の蒔絵 緒締:大同竹 根付:舟月作の青松笠
    ・「一富士二鷹の印籠」 印籠:富士に花野 緒締:鷹の鈴 根付:紫檀の茄子
    ・「月兎の印籠」 印籠:二匹兎 緒締:平手の水晶 根付:桂の木地で手杵
    などなど。 ただこうした大名は稀で、静山自身も「頗る珍奇の名を得た」と述懐しています。 旧大名・公家の売立目録や伝世品を見ると、江戸時代には、そうした取り合わせには、 むしろこだわらず、さりげなく、品の良いものを取り合わせることが美徳とされたように感じられます (※右図)。

     現代ではどうすれば良いでしょう。 まず、印籠の大きさに適した程良い大きさのものにすべきでしょう。 あくまで主役は根付ではなく印籠です。 あまり大き過ぎたり、印籠より目立つものでは、かえって印籠が引き立ちません。 柘植や象牙の容彫根付、蒔絵の饅頭根付や箱根付、金工の鏡蓋根付、 雰囲気が合うものなら何でもよいでしょう。 ただ、鹿角は格が落ちるので、豪華な蒔絵の印籠には控えたほうが良いと思います。

     蒔絵の饅頭根付や箱根付は印籠によく似合います。 名工が作った蒔絵根付は古いコレクションの印籠に附属しているケースがほとんどで、 残念ながら今日では入手が困難になっています。 それは根付の愛好家が印籠の愛好家に比べて格段に多いので、 印籠から外して、蒔絵根付のみで取引され尽くされたからです。 本来なら一緒にあるべき印籠と根付が離れ離れになってしまうのは、とても嘆かわしいことです。 この不均衡を是正するためにも、印籠の愛好家がもっと増えれば、と思う次第です。

    ※取り合わせの実例
    福井藩主松平家伝来の赤塚鳳船斎作「菊壽蒔絵印籠」。
    菊壽蒔絵の印籠に菊桐唐草の饅頭根付を取り合わせています。
    図版は昭和4年「旧越前福井城主松平侯爵家御蔵品入札目録」。
    2005年11月22日UP