特別展示室では時代・製作地にこだわらず、期間限定で不定期に 名品を展示します。

全体写真

鵜澤 松月
 (うざわ しょうげつ)


雁来紅蒔絵香合 
(がんらいこうまきえこうごう)

 寸法 :
縦79mm×横79mm×厚13mm

 製作年代 :
大正末から昭和初期

 作者 :
 作者の鵜澤松月は、近代の名工で、最後の印籠蒔絵師とも言える人物です。その作品は全世界68点の内、56点がスイス 内部全体写真 のバウアー・コレクション財団で所蔵されており、日本では知る人ぞ知る 名工です。その技術は師の白山松哉に勝るとも劣らぬもので、海外では極めて高く評価されています。 松月はいかなる美術団体にも所属せず、展覧会にも出品せず、 名利を求めずに、ひたすら優れた作品を作ることのみに没頭した人で、 松哉芸術の真髄を受け継いだ唯一の高弟です。そのため経歴など詳しいことが全く分かっていません。

表拡大写真(倍率2.3倍)  作品 :
 この作品の作品名「雁来紅」とは、 葉鶏頭のことで、雁が来る頃に紅葉することから、雁来紅の別名を持ちます。 このモチーフは、松月の師、白山松哉が、 1900年のパリ万国博覧会に出品して好評を博した「雁来紅蒔絵屏風」に着想を得たものです。 松月による同題の作品は輪島漆芸美術館の「雁来紅蒔絵棗」と バウアー・コレクション財団所蔵の「雁来紅蒔絵香箱」があります。 その画風は極めて写実的でいて、芸術性の高いものです。 しかしこの写実的に見えるものは、実は写生ではないのです。 師の松哉から何を描くにも常に写生によらない下絵を20枚描かせられていたそうです。 つまり写生を繰り返し、 見込み拡大写真(倍率3.3倍) 見なくても描けるようになってから20枚もの下絵を作り、その中から選んで下絵に使うのです。
 本作では黒蝋色塗地に、色漆を交えた5本の雁来紅を研出蒔絵で、2本を高蒔絵で表しています。 その葉脈は研出蒔絵の部分は引掻きで、高蒔絵の部分は付描で、 ほとんど人間業とは思えない精度の仕事をしています。
 見返し、見込みは銀の刑部平目地 に紅葉の高蒔絵です。 おそらく平目粉は、師の松哉がそうだったように、形の良い物だけ、一枚ずつ選んだのでしょう。 松哉は蒔辰という粉屋に特殊な製法で蒔絵粉を特注し、しかも店先に腰掛けて、 形の良い平目粉だけ選り分けたと伝えられています。箱銘写真 作銘写真 銀平目に色漆を使った 紅葉が配された様子は、 まるで真っ白な玉砂利の上に散った紅葉のようで、実に清々しいものです。
 保存状態が良かったため、 銀覆輪の外気に触れる部分は錆びていますが、 内部は全く錆びていませんでした。松哉は覆輪も自身で作ったと言われていますが、 松月はどうしたのでしょう。誰かに作らせたとしても、 やはり、自身で取り付けたのではないかと思います。表書写真  底には「松月」の研出蒔絵銘があります。松月自筆の共箱も附属しています。 松月の作品で共箱が残っているものは、 わずか数点です。ところで表書の題字はよく見ると籠字になっています。 その筆跡は松哉のものです。 おそらく、尊敬する師を尊んで、松哉の題した字を忠実に写したのだと思われます。
 妥協を許さない作家だったので、駄作は一点もありませんが、 その中でも傑作の一ついえます。

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2006年11月22日UP
2007年11月22日更新

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