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  •  蒔絵博物館はインターネット上にのみ存在するバーチャル博物館です。 蒔絵の世界を身近に感じて頂きたく、開設いたしました。

     当ホームページの目的…
     日本には絵画・金工・刀剣など様々な芸術品が存在します。それらの分野では その作者についての詳細な研究がなされ、伝記や銘鑑も存在しています。 しかし漆工、特にその名が残るべき蒔絵の分野では、余程の腕の名工でさえ、 その名が知られず、研究もあまりなされてきませんでした。 最近人気の原羊遊斎でさえ、つい数年前までは一部の人々を除けば、その名も知られず、 また基準作品の確定すらされていなかった程です。 このホームページの目的の一つは、 そうした蒔絵師の事歴と作品を明らかにし、顕彰することです。

     私は大学生の時に漆工品の美しさを知ると同時に、多くの素晴らしい作品を遺した 名工達の名が埋没している状況を知り、義憤を感じて独学ながら蒔絵師についての 研究をして参りました。私を支援して下さる諸先生方や友人の助けもあって、 二度にわたって「近世蒔絵師銘鑑」を発表することができました。この場を借りて 御礼申し上げます。研究を始めて十数年、蒔絵に関する展覧会や書籍も増えてきました。 より一層多くの方が、その素晴らしさに接する機会を得て欲しいと切望しています。

     ただ、工芸品は絵画とは違い、手に取る程の近さで鑑賞しなければ、その真の良さを知る ことは難しいと思います。美術館などでは、展示と同時にもう一つの目的である保存のために、 鑑賞には様々な障壁があります。暗い展示室内で、ガラス越しでの鑑賞は保存上やむをえません。 そこで、このホームページでは手に取り鑑賞をしているような臨場感をお伝えしたいと思いました。 写真も私の撮影ですので見づらいかもしれませんが、 少しでもその美しさ、素晴らしさ、楽しさに接して頂けたら幸いです。

     その昔、明治23年に柴田是真・池田泰真・小川松民らが発起人となり、漆工家が中心となって、 日本漆工会が発足しました。当時、隔月の常会では会員や帝室博物館(現在の東京国立博物館)・ 寺社が所蔵する古名作を持ち寄って鑑賞していました。 そして是真の長男柴田令哉が緻密な原寸の展開模写図を作り、技法解説を加え、 『日本漆工会雑誌』の付録としていました。 これは後に『漆器図録』として刊行され、 今日もなお学術的価値・資料的価値を評価されています。 当、蒔絵博物館作品展示室では、先達の偉大な労作『漆器図録』を手本とし、 蒔絵師の技を微視的にも鑑賞できる現代版『漆器図録』を目指しています。

     蒔絵師の紹介では、略歴とともに、その時代の雰囲気や作者の人間性を感じられるように 肖像や付近の地図・逸話などを載せています。作品は突然、現代に登場しているわけではありません。 作り手と注文者の人間模様や時代背景があって誕生し、幾多の災害を潜り抜けて存在しています。 蒔絵師が生きた時代に思いを馳せ、現存する作品の貴さをお伝えしたいと考えております。

     作品を鑑賞・研究・収集する上で、役立つと思われる基礎知識なども載せてみました。一つずつ理解できれば、鑑賞において難しいことはありません。 蒔絵の基礎知識を持って、鑑賞することで、さらに奥深さ・面白さを感じて頂けたらと存じます。

     最後に、このホームページで漆工品に少しでも興味を持つ方が増え、漆工品とその作者に対する 正当な評価がなされることを願っております。
    2005年11月22日 高尾 曜(たかお よう)